祗園祭で本社神輿の前につき,道途を祓いながら神様を前導しているのが「猿田彦大神(サルタヒコオオカミ)」です。
猿田彦自身も神様であり,導き・進路開拓・夫婦円満などの神とされます。
神輿渡御では神様の前導をしていますが,声を掛けたり接したりして進路開拓や開運などの御利益を授かってみてはいかがでしょうか。
神様の道案内をした神様
猿田彦は古事記や日本書紀にも登場し,「天孫降臨」などの箇所に記述があります。
天照大神の天孫であるニニギノミコトが地上へ降臨する際に,案内をしたのが猿田彦です。導きの神・進路開拓の神としての御神徳が高く,諸難や物事の始まりにあたって災厄を祓い運を開きます。
このようなことから,祭礼で神様が御神幸される際には猿田彦大神が前導する習わしがあります。
日本書紀では
なお,日本書紀では…
【意訳】(天照大神の天孫であるニニギノミコトが地上へ降臨する場面で。前行する神から)「この先に1柱の神がいます。分かれ道のところで待っていて,鼻の長さが約56cm,身長210cm以上,相当な大柄です。しかも,口元が光り,目は鏡のようで,顔全体がホオズキのようです。」と報告があった。そこでニニギノミコトは従神を派遣して何者か尋ねさせたが,誰もがその神に圧倒され問うこともできなかった。…(中略)…(物怖じしないアメノウズメが派遣されて)「天照大神の御子孫が進む道に,そのようにして待っているのは何者か!」と問うと,その神が「天照大神の御子孫が地上へ降臨されると聞きました。そこで,お迎えしようと待っています。私は猿田彦大神です。」と答えた。
…とあります。
のちに猿田彦とアメノウズメは結婚したといわれ,夫婦円満の神様ともされています。
天狗ではない
風貌の一部から天狗と混同されがちですが,天狗とは異なります。
天狗は(一部に神として信仰されるものもあるが)異怪の類であり,御神輿を前導する経緯はありません。混同や付会,習合,特殊な地域伝承などから,「天狗」が神輿を前導する事例も皆無ではないようです。
猿田彦と天狗で似ている点は面持ちの一部くらいです。しかも,その面持ちも後世に登場した天狗のほうが付会したものと考えられます。
外見の相違には,主に次の点があげられるでしょう。
- 猿田彦は太刀を佩き,比礼のついた鉾を携える/天狗は八手の団扇を携える
- 猿田彦は狩衣・袴・鳥兜を身に着ける/天狗は山伏装束・行者烏帽子を身に着ける
- 猿田彦は異形ながら人型である/天狗はクチバシがあったり,羽があったりする
時おり,「猿田彦のことを天狗ともいう」「天狗のことを猿田彦ともいう」ということを伺いますが,本来は根本的に異なるものです。